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欧州フィジカル・スポーツメディカルレポート by チャビ・リンデ / 第2回『前十字靭帯からの再適応 Part1』

皆さんこんにちは。

Invisible trainingの代表を務めるチャビ・リンデです。


前回のコラム「慣性トレーニング」の記事をご覧くださり、誠にありがとうございました。





今回のコラムで扱うテーマは『前十字靭帯損傷からの再適応』についてです。

既にご存知の通り、アスリートにとって重度の傷害であり、特に去年、今年にかけて世界中で多発しています。


現在(2024年3月上旬)、私たちのクリニックにも10人ほど前十字靭帯を損傷した方々が来院しているので、プロレベルだけでなく、アマチュアレベルでも多発しているのが現状です。


そこで今回は、Part1、Part2に分けて前十字靭帯を損傷してから競技復帰をするまでどのようなプロセスを推奨しているのかを特別にご紹介致します。



◼︎初めに


前十字靭帯(ACL)損傷からの再適応(競技復帰までの)プロセスを理解するために、まずは機能性と特徴を理解する必要があります。大腿骨外側顆から始まり、脛骨顆間窩隆起の前部に渡る膝の関節内構造です。


この靱帯の主な機能は、大腿骨に対して脛骨が前へ変移しないように制御することです。さらに膝の外反や内反のような位置がずれる傷害メカニズムを回避し、過伸展が生まれないように制御するなど膝の安定化としても働きます。


最も一般的なACL損傷のメカニズムは、固定された脛骨(足が地面に付いている状態)に対して大腿骨が外反動作中に回旋することです。他の一般的なメカニズムは膝の過伸展によるものです。これは脛骨の内旋と組み合わさることもあります。最後は膝を過度に曲げる動作で断裂するケースがあります。


様々な研究でも繰り返し実証されているように、ACLの完全断裂は膝の不安定化、半月板や軟骨表面、更には変形性膝関節症などの二次的損傷を引き起こす可能性があります。


再適応のあらゆる治療では、術後か否かに関わらず、主な目的は損傷部位の機能性を最適なレベルにし、あらゆるタイプの不安定性や機能不全を回避しながら、モビリティを最適化しながら、更には筋力やフィジカルコンディションを改善することです。


それを獲得するためには、再適応のプロセスで行う動作やタスクや進行の仕方などの可変要素以上ではありませんが、術後のケースではテクニックや移植、固定の仕方などの手術の特徴や可変要素が重要です。




◼︎再適応のフェーズについて


2018年のACLのリハビリテーションのガイドとなるマニュアル(Melbourne ACL Rehabilitation 2.0)を作成したRandall CooperとMick Hughesによると、再適応プロセスのフェーズは以下のようになります。




▶︎術前フェーズ:傷害からのリカバリーと手術の準備

主な特定の目的:

  • 炎症を取り除くこと

  • 可動域を取り戻すこと

  • 反対側の脚と比べて大腿四頭筋とハムストリングスの筋力を約90%回復させること


この最初のフェーズで考慮すべきことは、靱帯が損傷したとしても身体能力を失わないようにトレーニングをすることが出来、可能な限り手術前に膝を最良のコンディションに出来ることです。ジャンプ、着地、方向転換などのACLに大きな負荷がかかるメカニズムは避けるべきです。


炎症と固定することにより、大腿四頭筋が最初の7日間で筋力の最大30%を失う可能性があることを考慮すると(De Andrade, Grant & Dixon, 1965)、このフェーズでは筋力、筋肉量の低下を最小限に抑えることが重要です。


これによりアスリートが身体的、機能的に最良のコンディションでリハビリテーションプログラムに臨めるようになります。




▶︎第一フェーズ:手術からのリカバリー

主な特定の目的:

  • 膝の最大伸展

  • 炎症の軽減

  • 大腿四頭筋の筋力トレーニングの開始



手術が行われたら、翌日からでもアイソメトリックトレーニング(等尺性筋収縮)や重りを用いずにトレーニングをすることが出来ます。最初に求めることは強化することではなく、特に大腿四頭筋の部位を活性化させることを考慮することが重要です。


初期段階では筋肉に高強度の筋力発揮をさせることはせず、筋肉が少しずつ発達することを可能にする質の高い(自発的な)活性化を求めます。筋肉や身体全体をコントロールすることを学ばなければいけないので、トレーニングにおける自発性も重要です。



進行するにつれて大腿四頭筋のリカバリーを促進し、関節前部の痛みを軽減するために段階的なサポートが必要となります。Barber-WestinとNoyesによると(1993年)、早期のサポートにより、アスリートは出来るだけ早く筋力を向上させ、自信を高め、歩行を正常化させるようになります。


足を地面に置き、自分の体重を支えるための膝にかかる軸荷重は治癒を促進します。更に足で支えるようなCKC(クローズドキネティックチェーン)の働きは大腿四頭筋とハムストリングス(膝の安定性を促す筋肉)を同時活性化させ、大腿-膝蓋へのストレスを最小限に深部感覚や機能性の刺激を与えながら正常なバイオメカニカルをより良く再現します。(Cascio, 2004; Escamilla, 1998; Gotlin & Huie, 2000; Kvist, 2004)


そうであっても、足で立つことは膝に不安定性が出る可能性、弱った筋肉に過剰な力が作用する可能性、さらには脛骨の前方変移が出る可能性があるので急ぐべきではありません。したがって術後の生物学的治癒時間を常に尊重しながら常に痛みをコントロールし、そして特に何よりも怪我を負わせてはいけません。


私たちが様々なところで伝えてきていることですが、同じ怪我でも人によって異なる可能性があるため、これら全てのことはプロセス中での制限を把握するのにも役立ちます。



考慮すべき他の重要な側面:

  • 最初の数ヶ月間はOKC(オープンキネティックチェーン)の大腿四頭筋の働きを制限すること

  • CKCの大腿四頭筋の働きで膝の屈曲を調整すること

  • ヒラメ筋は脛骨の後ろへの変移を引き起こすため、考慮すべき役割を果たす(脛骨が前方に変移する傷害メカニズムとは対照的)




▶︎第二フェーズ:筋力と神経筋のコントロール

主な特定の目的:

  • 片足立ちでの安定性を回復

  • 筋力を回復

  • シングルレッグスクワットを上手くコントロールしながら実行すること


前のフェーズでは膝の周囲の筋肉(負傷した下肢の筋力を回復させる主な筋肉)に重点を置いてトレーニングを行います。これはリハビリテーションプロセス全体を通じて維持する必要があります。


再適応のこの時点では、取り組むべき焦点を少し拡大し、コア(腹筋、臀筋のゾーン)のような補完的で安定化する筋肉に重点を置く必要があります。


これによりクライアントは歩行、また重心移動(スクワットなど)などの運動メカニズムを安定させてコントロール出来るようになります。


更に、筋肉間のコーディネーションレベルと深部感覚レベルが向上し、下半身の筋肉が生み出す筋力の効率が向上します。





▶︎第三フェーズ:ランニング、アジリティ、着地

主な特定の目的:

  • プライオメトリクストレーニング(テクニック、距離、持久力)で良いパフォーマンスを発揮すること

  • アジリティとリアクションのタスクで良い結果を出す

  • 筋力と安定性を完全に取り戻すこと


※前十字靭帯損傷からのリハビリ・再適応で行うトレーニングの1つ

前のフェーズと異なるポイントは、この時点では何かしらの外部からの刺激や様々な筋力トレーニングに取り組むことが理想的です。基礎筋力が十分なレベルに達したら、筋力発揮(筋力発揮速度)に取り組む必要があります。(ジャンプや着地といった踏み込むアクションが必要となる動きはプライオメトリクストレーニングをする上で非常に重要な側面です。)


前のフェーズよりも生み出される機械的ストレスや不均衡が大きくなるため、プライオメトリクストレーニングを段階的に導入する必要があります。




▶︎第四フェーズ:競技復帰

主な特定の目的:

  • 今までのフェーズを正常に完了する

  • アスリートに身体的にも精神的にも競技に復帰するために自信と安心感を持たせること


このフェーズの後には最終フェーズがありますが、この時点でも再適応プロセスの最終フェーズにいると言っても過言ではありません。


全般的なアプローチから特定のアプローチへの進行はリカバリープロセスの初期段階から行いますが、特定の状況を再現する必要があり、それはグラウンドの表面、相手との接触有or無、アスリートが視覚、聴覚、または別の刺激を受けたのか実際の負荷(プレー時間、強度、動作の回数)などのストレスが加わっている可能性のある外的要因を考慮する必要があります。




▶︎第五フェーズ:傷害予防

主な特定の目的:

  • 筋力、プライオメトリクス、安定性のトレーニングを続けて行うこと


活動に復帰してから理想的には週1回、6〜8週間続けます。(ただし損傷した膝関節の健康状態の安全を確保するためのこの傷害予防の取り組みは競技人生全体を通して行うことを推奨しています。)


この時点ではアスリートはすでに回復しており、理論上は怪我前と同じ条件下で(またはとても近いレベルで)身体活動、競技を行なっています。ただしこの時点での唯一の懸念点は傷害予防を取り組み続けるということです。


スポーツ活動を行う全ての人は、怪我の予防のため、またパフォーマンスを最適化するためにもこのような取り組みを行うべきです。アスリートの再受傷(怪我を負った直後に繰り返して怪我を負うこと)の割合は高く、一度怪我を克服したとしても私たちが推奨する傷害予防を怠ると再受傷する確立が高まります。




◼︎終わりに


最後までご覧くださり、ありがとうございました。

今回はおおまかに前十字靭帯損傷からの再適応プロセスの各フェーズをご紹介致しました。


再適応については私たちが提供しているオンライントレーナーコースにて、ハムストリングスやグローインペインなどの臨床を用いて、評価をしながら再受傷を防ぐための具体的な再適応プロセスを紹介しています。

再適応を実施する上で、具体的にどのようなポイントを意識しながらどのように段階的に取り組んでいるのかを学んでいただけます。



最先端のプロスポーツ現場の知見に基づく傷害予防プログラムと機能的評価方法



次回は前十字靭帯損傷からの競技復帰Part2(女性の前十字靭帯損傷について)をご紹介致します。

ではまた次回まで。アディオス!




翻訳:古川勇太

監修:田中五大


≪Invisible training≫

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Invisible training CEO、FCバルセロナ理学療法&RTP部門責任者チャビ・リンデ監修の下、毎月変わるテーマの解説や100を超えるエクササイズ動画を「いつでも」「どこでも」観て実践出来る次世代トレーニングサービスです。


 

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